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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1129号 判決 1949年11月12日

被告人

金炳穆

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

理由

辨護人塚本義明の控訴趣意は別紙同人名義の控訴趣意書と題する書面記載の通りてある。

第一点について。

窃取行爲の既遂の時期は、犯人が目的物につき他人の所持を排斥して自己の所持を説定した時と解する。他人の所持が完全に失われない間は未だ既遂と認められない。何時他人の所持が完全に失われたかは目的物の量や大きさ等その場所との関係から考えなければならない。今本件に於て原判決挙示の証拠によれば、被告人が氏名不詳の者と共謀し判示日時頃判示北川正則方二階の窓から、同人の保管に係る國有綿一約十二貫ものを屋根廂の上まで持ち出したところを誰何されたので目的物を置いたまゝ逃走したことを認め得る。此の程度では犯人が目的物を或程度移轉しては居るけれどもその場所は被害者方の二階の窓の直ぐ外の屋根廂に過ぎず。而も目的物は高さ三尺幅四尺位で約十二貫の重量ある木綿一であるから、斯る場所的関係と目的物の容易には動し難い重量とを考え合せるときは、未だ被害者の所持が完全に失われたとはいわれない。故に本件窃取行爲は未だ既遂の域には達しないとみるのが相当である。

原判決が之を既遂と認定したのは誤りであつて論旨は理由あり、此の点に於て原判決は破棄を免れない。

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